高齢化で取り組むべき対策のヒントを英国医療福祉制度「QOL・NHS・GP」から学ぶ

 世界全体で高齢化は進んでいますが、日本の高齢化は今までどこの国も経験したことのない早さです。日本は1960年の国民所得倍増計画をきっかけにして、70年代は一億総中流社会を目指し、皆で同じ価値観を共有しながら高度経済成長を成し遂げました。2000年に入ると社会の格差が拡大する一方、「生活の質」(QOL=quality of life)をより高めるために個人の価値観が尊重され、個性も重視されるようになり、医療にもその考え方がひろがりました。その結果、オーダーメイドが可能な在宅医療や地域包括ケアへの期待が高まっています。QOLの「life」の意味は「生活」だけでなく、「人生」と置き換えることもできます。QOLに注目する流れは日本だけのものではなく、英国やオランダを含むヨーロッパをはじめ、アメリカなどでも同様の現象が起こっており、これは医療福祉における世界のトレンドともいえそうです。

 現時点で日本は高齢化率世界一ですが、その日本の中では秋田県の高齢化率がトップとなっています。また、地方都市である秋田市の現在の人口統計と、横浜市の20年後の人口統計を比べると、人口ピラミッドの形がほぼ同じ形になります。このことからも、本県は世界で一番早く高齢化社会への対策に取り組まなければならないことがわかります。またその対策法は、本格的な高齢化社会をこれからむかえる都会からも注視されています。いま秋田県が取り組むべき対策のヒントを、1980年代に世界一の高齢化社会を経験し、それを乗り越えてきた英国に求めました。英国はイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドで構成され、面積は本州と四国を足したぐらいで、2023年の人口は6800万人(日本1億2300万人)です。

 英国の医療は1990年代の保守党サッチャー政権下で崩壊の危機に陥りましたが、2000年以降の労働党ブレア政権下で実行された大胆な改革で、目覚ましい進歩を遂げたといわれています。英国の消費税は17.5%ですが、医療は国民医療サービス(NHS=national health service)により国の税金ですべて運営されております。

 国民はほぼ全員が家庭医(GP=general practitioner)に登録し、新生児から高齢者に至るまでの健康問題すべてを相談できる環境になっています。GPは1次医療において適切に対応するプライマリーケア専門医として、各科専門医のスペシャリストと同等以上の信頼を得ており、大きな病院はGPの紹介がなければ受診することができません。

 2013年10月に英国家庭医学会(Royal College of General Practitioners: RCGP)認定家庭医である澤憲明医師のクリニックを訪ね、英国の医療福祉制度を見学させていただきました。

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