在宅の役割は日常生活の「維持」

 GPNETメンバーの、秋田往診クリニック 市原利晃理事長 が在宅・往診医療についての経験やマインドを語ってくれます。

 病院の役割は治療だけでなく、その先の生活への「復帰」であり、在宅の役割は日常生活の「維持」です。医学の目的が病気を治すことだけであるすると、治療できなければ医学は無力ということになってしまいます。
 病気になってしまったら一時的に治療へ専念し、入院が必要となることがあります。入院により高度な治療を受けることが可能となりますが、その期間は普段の日常生活に支障が出るかもしれません。通院できない患者さんでも、医師が定期的に自宅を訪問する訪問診療が可能です。 入院による積極的な治療や通院での生活と共存した治療と同じように、日常生活の中で行える在宅医療も大切な選択肢の一つです。
 1960年代までは急病に対する臨時の往診も珍しくありませんでしたが、高度経済成長を背景とした医療技術の発達とともに、病院での医療が中心となりました。しかし、80年代ころから在宅医療の必要性が見直されています。在宅での医療・看護・介護などによるケアを包括して在宅ケアと呼びます。在宅ケアを支える環境は年々整備されています。

病院医療と在宅医療は役割を分担しているため、お互いに連携することも必要です。在宅の場で対応できることが増えれば、病院はより高度な医療を専念できる場にすることができます。都会での救急車のたらい回し問題など、重症患者への対応の遅れを回避することができるようになります。医師の偏在や今後さらに進む高齢化社会などの諸問題にも、地域包括ケアシステムの中で在宅ケア体制の充実が対策の一つになるかもしれません。
 しかし、まだまだ在宅ケアへの理解が不十分だと感じます。病院医療が及ばない範囲での在宅医療ではありません。日常生活を「生きる」ための医療でありケアです。患者さんにとって「家に帰りたい」と言い出しにくいこともあります。病院スタッフのみなさまには、そういった患者さんの気持ちを上手に拾い上げていただき、在宅医や訪問看護師、ケアマネージャー、薬局などの在宅スタッフへ繋げていただければ幸いです。

「家にいたい」もしくは「自宅に帰りたい」という思いから在宅ケアが始まります。
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