緩和ケアに必要なもの「人」に視点を置いた総合診療そのもの

緩和ケアセンターの杉本と申します。
皆様、総合診療と聞いてどのような医療を思い浮かべますか。胃カメラもカテーテル治療も外科手術もお産も、難病と言われる病気も一人がいれば何でも解決する、そんなスーパーマンになりたいと総合診療に興味をお持ちになった方も多いかと思います。
医師を目指す人の多くは、目の前の患者さんを自分の手で救いたい、自分の手で治したいという気持ちをどこかに持って医学部の門を叩かれたと思います。私もその一人です。しかし、残念ながら現在の医学では治らない病気もまだたくさんあります。

私は後期研修医として駆け出しの時、今の自分よりも若い末期癌の患者さんを立て続けに担当することがありました。当時の治療は、時に命の危機になるような副作用とも戦うため入院を余儀なくされながらも、中央値で半年の予後が、数週から数か月の延長効果を見込むというものでした。
「小さい子供と会いたい」と仰りながら入院生活を継続し、強い副作用に耐えながら必死に治療を頑張られる姿を見ているうちに、「家族との大事な時間と引き換えにこんなに頑張らなければならないのか」という気持ちがわいてきました。

ここに応えるためには二つの方法があります。「素晴らしい治療法を開発し、全く副作用が無くどんな癌も根治させる」という方法が一つ。夢みたいな話ですが、私の周囲にもたくさんいた多くの「患者さんの病気を治したい」という熱意溢れる優秀な医師が束になり、いずれそのような治療方法が開発されることを祈っております。
現実的には私の人生が終わる日までその日が来るとは限らず、その間医師である私ができることを考えた時に、癌と闘いながらも、あるいは抗がん剤等の癌と闘う治療ができない段階になったとしても、症状や悩み等その人の辛さを和らげることでその人の人生が良くなるということは無いだろうかということを考えるに至りました。それが二つ目の方法にあたる緩和ケアでした。

不治の病があったからといってその人の人生が終わりなんてことは決してありません。子供と楽しく過ごす時間、大好きな趣味を楽しむ時間等々。病気があってもそのような時間は守られなければならない。それは病気を治すことと同等か、もしかしたらそれ以上に大事なことではないかと思います。そこを守るためには、その人の生活にちょっとお邪魔して、その人の日常生活がどうなのか、家庭環境はどうなのか、どのような症状や障害があることでそれらがうまくいかないか、解決策はどのようなものがあるのかということを考える必要があります。

「病気」に視点を置いたスーパーマンのような総合診療も素晴らしいですが、ここに必要なのも「人」に視点を置いた総合診療そのものです。また「全人的苦痛」という言葉があるように苦痛の原因は本当に様々でかつ複雑に絡み合ってできていることが多いです。緩和ケアにこそ総合診療マインドが求められます。

中には病気で亡くなることを「病気に負けた」と表現する人がいるかもしれません。そんな表現は好きではありません。病気と闘いたい人がきちんと戦い抜けるように、闘いたくない人にも安らかな時間があるように、そして人生のフィナーレを迎えた時に「自分の人生は悪くなかった」と思ってもらえるように、日々の診療をしております。

皆さんが思い描くものとは少々毛並みの違うかもしれない医療、でも人生に視点をうつしたら一番基本になるはずの医療、少しだけのぞいてみませんか。