在宅ケアでの経管栄養

 GPNETメンバーの、秋田往診クリニック 市原利晃理事長 が在宅・往診医療についての経験やマインドを語ってくれます。

 19世紀以降に医学は大きく進歩を遂げました。19世紀中頃には消毒法が、20世紀にはペニシリンが発見され感染症に対する治療が大きく進みました。現在も医学ではさらなる進歩を目指して研究が進んでいます。しかし、老化現象を完全にコントロールすることは難しく、生活の質を良いものにするため老化に対応していく事が必要です。近年は病気を治療することと同じくらいに、病気と共存することも注目されています。
特に高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病では病気と上手につきあっていかなければいけません。多職種による連携体制が充実してきており、在宅でケアできる疾患の種類も増えてきました。より細やかなケアをもとめる結果として、在宅療養を希望される患者さんも増加してきています。
日常生活の維持をめざした在宅療養の実例を紹介しながら具体的な在宅ケアについて紹介させていただきます。

 在宅ケアを受けられている患者さんのうちで比較的多く見られるのが、脳卒中などで身体に麻痺が残った方や、入院などの影響で手足の筋力が低下し日常生活の自立が難しくなった方々です。
安静状態が長期間続く事によって起こるさまざまな心身の機能低下による種々の症状は、廃用症候群と呼ばれています。この症状の集まり(症候群)には嚥下の機能低下も含まれます。食べ物などを口腔内からうまく食道に送り込むことができずに、気管内に吸い込んでムセてしまうことを誤嚥(ごえん)といいます。そういった方のうち、誤嚥がひどいと窒息や誤嚥性肺炎を合併する事もあります。

それらを減らすために、食事を直接胃の中に食事などを送り込む手段が、胃ろうや経鼻胃管です。胃ろうとは胃と体表を直接つなぐ穴(瘻孔・ろうこう)のことで、経鼻胃管とは鼻から胃まで留置した細いチューブのことです。直接胃や消化管の中へ栄養剤などを注入する経管栄養管理のために利用します。
もともと人間を含めた動物は口から食事をとる経口摂取が自然です。自然な生活を拒む形で胃ろう・経鼻胃管を利用する事が経管栄養管理が寝たきり状態のきっかけになってしまう場合もあるため、それらの適応に関しては見直されてきています。しかし、胃ろうを上手に利用して健康的な生活を送ることができる場合もあります。

 脳出血を発症した70歳台の男性は治療が及ばず後遺症として、歩行障害と嚥下障害が残り、入院中に食事がきっかけの誤嚥性肺炎を繰り返すため、胃ろうによる経管栄養管理が選択されました。しかし、退院後のご本人の努力とご家族の協力により、介助は要するもののトイレへの歩行ができるまで回復されました。医学は長生きのための手段ではなく、質の高い生活をおくるために利用するものです。

 自然な生活を取り戻せるのであれば、胃ろう・経管栄養も一つの手段となるかもしれません。しかし不自然な生活のきっかけにならないように、その適応については医療関係者だけでなく、患者さんとそのご家族とも一緒に十分に検討していく必要があると思います。

「家にいたい」もしくは「自宅に帰りたい」という思いから在宅ケアが始まります。
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