「現代医療において漢方薬の役割は大きい」

 私は救急科専門医、特に救急外来での急患対応を専門とする ER(emergency room)ドクターというのが専門です。
イメージ的には海外ドラマERに出てくるような医師像です。
つまり、歩いてくる患者から救急車で搬送されてくる患者もいます。しかし、歩いてくるから軽症、救急車で来るから重症というわけではありませんし、急患は予約して来ることはありません(笑)。

 われわれER医はそのような雑多な状況から、診断への最短ルートを調整し、適切な処置を行い、重症度をふるい分け、適切な専門科に繋いでいく仕事をしています。 そのような緊急性のある現場に漢方薬の役割があるのかと思われるかもしれません。

しかし、そもそも漢方医学の原典とも言える「傷寒論」の著者とされる、張仲景はその序文に、傷寒、
つまり流行り病で一族の7割も亡くなったとしており、この悲しい経験に発奮して、傷寒論を著したと書いていることから、まさしくパンデミック期の救急現場の状況から生まれた医学だと理解されます。事実、漢方薬は急性疾患にもきちんと効きますし、いまのところ漢方薬しか有効な対策がないような場面もたくさんあります。


 例えばERの現場でよく見かける疾患の一つである熱中症。
最近は猛暑日が続き、熱中症対策をしていても全身が筋痙攣、俗にいう「攣った」状態で搬送されるケースがよくあります。すぐに点滴や冷却を行っても、それだけであると症状が消失するまで30分~1時間程度かかることがあります。しかし、芍薬甘草湯という漢方薬を使用すると2~3分で治まります。

 またインフルエンザや風邪症状には葛根湯や麻黄湯がよく効きます。これらの漢方薬を発症早期に正しい飲み方できちんと療養すれば、半日もあれば良くなったと自覚できます。このようなことは抗インフルエンザ薬を有する現代医療でも実現できません。
さらに最近は、新型コロナ感染症が猛威を振るっていますが、これにも柴葛解肌湯という漢方薬で解熱が早期に得られたり、重症化を防ぐ可能性が示唆されたりしています。
胃腸炎などには柴苓湯や半夏瀉心湯などが効きますし、めまいにも五苓散が著効することがあります。

 漢方薬と出会わなかったときには、解熱鎮痛剤や胃腸薬しか出しようがなかった急性疾患に、漢方薬が果たしてくれる役割は大変大きいのです。
さらに、漢方薬は急性疾患だけではなく、慢性疾患にも有効です(イメージ的にはこちらがしっくりくるかもしれません)。総合診療でも診断がつきにくい、つけられない疾患にも症候群として対応することが可能です。

現代医学で劇的に効果のある治療は限られますが、漢方薬で症状を軽減させることができれば、患者のQOLに向上にも寄与できるでしょう。