【秋田】都市部で専門医療をするより、地方の変化する医療課題に関わるほうがやりがいを感じる(3/3)

北秋田市民病院 循環器内科診療部長 佐藤誠先生 に聞く◆Vol.3 (3回連載の3回目)

2022年9月2日 (金)配信m3.com地域版より

エムスリー株式会社様より出典・掲載了承済み記事 【取材・文=麦角社 渡辺悠樹】 

 循環器内科、救急医療、総合診療などの分野で数多くの専門医資格や認定を取得している北秋田市民病院循環器内科診療部長の佐藤誠氏。研修医時代から、出身地である県北部の医療課題を意識してキャリアを重ね、そうして取得してきたそれら資格は、現在若手医師の育成にも大きく役立っている。医療ニーズに合わせて自身の立ち位置を変化させてきたという佐藤氏に、地方における医療課題の今後と、課題に取り組むことの面白さなどについて話を聞いた。

(2022年7月18日インタビュー、計3回連載の3回目)

――先生は専門医などの資格や認定をたくさん取得されていますね。

 私はもともと地元である県北部で仕事をするつもりだったので、逆算と言いますか、40歳を過ぎてから当地で仕事をするとなった時に、外部から若手を引っ張ってきたり、仲間を増やしたりするのに専門医資格が必要になるだろうと考えていたのです。自分が若手だった時に医療機関の選定で大きく影響したのが、専門医資格が取れるか、臨床経験を積めるかという点だったので、若手が不足を感じない資格を取ってから戻りたいと考えていました。

 やはり私にとっての地元であり、地域の状況はよく見ていたので、昔から当地の医師不足や地域格差といった医療課題は意識していました。医師の少ない地域においては、単一の診療科の専門医だけでは不十分だということもわかっていたので、経験・実力は全く伴っていませんが、若手が学びたい分野の専門医を取って、一緒に学べる土台だけは整えておこうという考えがありました。ちょうど新専門医制度も始まったので、二階建ての一階部分の資格はなるべく多く取ってから赴任したいと考えていたのです。

 私が秋田市内の病院で研修医をしていた頃です。カテーテル治療を術者として担当し始めましたが、やはり秋田県は首都圏と比べると治療実績が桁違いに少なく、ライブで手術の様子を見ても、圧倒的に情報不足だと感じていました。そんなとき、循環器イメージング領域の日本第一人者である角辻暁先生(現在は大阪大学大学院医学系研究科国際循環器学寄附講座 寄附講座教授)が講演にいらっしゃいました。「給料はあまり出せないが、レジデント枠で受け入れることは可能です」とお声がけいただいたので、当時先生が勤務されていた、りんくう総合医療センター市立泉佐野病院に入れていただきました。その後、先生の異動と共に私も名古屋徳洲会総合病院に移りました。

2007年に秋田市に戻ってからは、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会CVIT専門医、総合内科専門医などを取得しました。標準レベルの治療を提供できるようになるのはもちろんですが、指導者として後継者を育成していく目的もありました。

――若手育成の取り組み状況について教えてください。

 若手医師が田舎で仕事を続けてもいいと思える環境をどう作るかを考えていたので、総合診療や救急の分野の資格を赴任する前に取っておきました。現在は自治医科大学の卒業生が4人、総合診療的な役割を担う当院内科に在籍しています。彼らが将来的に小児科や産婦人科に進みたいと考えていても、総合診療や内科、救急の研修を受けられる施設であれば、資格取得の意味でもロスがなくなります。当院は当地医療圏の患者さん全てを抱えていて、救急患者も多いので、自治医大の研修医や義務年限中の卒業生からの評価が高くなっているようです。私がこれまでに時間をかけて資格取得をしてきたのも、決して無駄ではなかったと思っています。

 それから、せっかく医師が複数人勤務しているので、それぞれ交代で休暇が取れるような協力体制を作りたいと考えています。働き方改革の件もありますし、若い医師を受け入れるためには必要な取り組みです。例えば、長い間診てきた患者さんが亡くなる時、最後の死亡確認も担当の医師がするべきだという考えが昔からあります。私もそのように習ってきたのですが、緩和医療の領域では、亡くなるまでのプロセスでご家族との関係性さえしっかり保たれていれば、最後の死亡確認は当番医や初めての医師であっても、ご家族の満足度は決して下がらないということがわかってきています。高齢社会が進む中で亡くなる方も増えていますから、すべて担当医師の呼び出し業務にならないように、「お互いさま」の気持ちでワークシェアできるようにと考えています。

 こういったことは若手の医師からは提案しづらい内容なので、管理部門や事務部門などと話のできる私の役目だと思っています。ご家族との面談を繰り返す中で、休日夜間など主治医が不在の際の死亡確認は当直医が対応する旨を、事前にご家族からご了解いただいていれば、普段看取りをしない整形外科や小児科の先生方も、当直帯に死亡確認をしていただけるようになっているので、大変助かっています。

――「お互いさま」というのは大事な考え方ですね。

 当地が田舎だからなのかもしれないのですが、これからはどの病院でもそういう感覚でやらなければいけないと思います。例えば手術件数の少ない診療科に2人体制を敷きたいからと、人口減・患者減が進む中でも大学の医局に派遣をお願いできるだろうかと考えるわけです。もともと田舎の病院では、一般外来も救急外来も診療科を越えて交代で担当してきましたし、それが一番合理的な解決策なのです。

 ただ、そのためには地域の方の理解も必要です。専門の先生が不在だった時に患者さんやご家族から「呼んでください」と言われないよう、ご理解いただける街を作っていかなければなりません。

 その一方で、もしかすると医師自身のほうが、「専門医でないと診てはいけない」とか、「患者さんが満足しない」といった思い込みがあり、そのために地域の理解が進まないのではないかとも少し感じています。この地域の方々は結構おおらかで、「明日は私が不在になるので循環器の医師がいないですよ」と伝えると、ご家族の方はこちらが考えるよりも納得していただけるのです。

 あとは病院間の連携ですね。例えば当院の先生が対応できない時や、秋田大学から来ていただいている麻酔科医の先生がいない時などに緊急の全身麻酔開腹手術が必要な患者さんが来くると、医療圏を越えて搬送の受け入れをお願いすることがあります。こういったことはかなり昔から日常的に許容されてきたことです。365日、常に自分たちの医療圏で全てを解決するのは既に困難な状況になっているので、普段から情報交換などをして協力していただいています。

――今後の展望をお聞かせください。

 これは現在抱えている医療ニーズというよりは、5年後、10年後の課題になるのですが、消防や患者サポートセンターなどから入って来る情報を通じて感じるのは、遠隔地の訪問診療や看取りの問題です。在宅・施設の患者さんに関する将来のニーズに、どのような体制で取り組んだらいいのか、これから医師会の先生方や介護施設の方々と一緒に話し合いをして、今のうちから準備しておきたいと考えています。当地は人口減・患者減の先進地であり、そうした地域だからこそ日常的に「お互いさま」の診療応援を行うことができていました。しかし地域内での診療応援のフェーズは既に過ぎていて、今後は2次医療圏や学閥をも超えた広域で協力し合う「お互いさま」の体制が必要であり、今その準備を進めているところです。

 私としては、これからどんな取り組みができるのか、少し楽しみでもあります。20代、30代、40代と、その時々の医療ニーズに合わせて自分を変化させていくことに面白さを感じてきました。

 首都圏などの都市部で専門医療に専念するよりも、地方の変化する医療課題に関わっているほうに私はやりがいを感じます。少なくとも、私自身が秋田市でカテーテル治療ばかりしていた時と比べると、今のほうが楽しめていると思います。地域医療に興味のある若手医師にも、地方でこそ感じられるやりがいがあることを伝えたいですね。

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