「原因は医師不足ではない」外来予約徹底とダブル主治医の徹底で混雑解消(1/3)

北秋田市民病院 循環器内科診療部長 佐藤誠先生 に聞く◆Vol.1 (3回連載の1回目)

2022年8月5日 (金)配信m3.com地域版より

エムスリー株式会社様より出典・掲載了承済み記事 【取材・文=麦角社 渡辺悠樹】 

 医師不足や医療資源の偏在といった医療課題が著しい秋田県。特に県北部の抱える課題は大きい。2018年に北秋田市民病院に赴任した佐藤誠氏は、他の医療機関で培った経験とマネジメント能力を生かし、県北部で厳しい状況にあった救急外来の改善に取り組んだ。同院循環器内科診療部長の佐藤氏は「必ずしも医師不足だけが原因ではなかった」と語る。どのように課題解決を図ったのか。 

(2022年7月18日インタビュー 3回連載の1回目)

――北秋田市民病院に赴任した経緯を教えてください。

 私は秋田市でインターベンショニストとして仕事をしていましたが、県内の虚血性心疾患に関する地域格差や、県北部における長時間遠距離搬送の多さなどへの不平等さを事あるごとに感じていました。県北は私の地元でもあるので、その是正に関わりたい気持ちが常にありました。そんな私に、以前から神谷彰院長よりお声がけをいただいていた縁もあり、秋田大学渡邊博之教授にお願いして当院へ赴任させてもらいました。

――どのような医療課題に取り組んできたのですか。

 北秋田医療圏(北秋田市、上小阿仁村)は、人口3万人超、高齢化率が47%の地域です。当院の病床数は約200床、年間の救急搬送が約1500台あります。2010年に当院が公設民営で開院して以来、外来患者で混雑していたり、当院だけでは解決できない疾患が多かったりといった、慢性的な医師不足に由来すると思われる課題を長く抱えていました。

 私が赴任してまず取り組んだのは、特に心筋梗塞や脳梗塞の発症から再灌流までの虚血時間の短縮といった循環器救急に関わる課題の改善です。まずは当院における一般外来の混雑の解消と、フリーの救急担当医の割り当てによって常に救急外来に対応できる体制を整え、院外においては開業医の先生方、他地域の医療機関、消防などさまざまな機関との連携を強化していきました。

 北秋田市は全国で最も医師充足率が低い地域でありながら、当院は地域で唯一の救急指定病院であり、施設の規模に比して救急搬送が多いという特殊性があります。にもかかわらず、かかりつけで一般外来を利用する患者さんが多いことなどを理由に、救急患者が運ばれてきてもすぐに対応ができないのもやむを得ないとする雰囲気が院内にあったので、その部分は適正化していく必要があると考えました。

 私は何か特別なことをしたわけではなく、他の地域や医療機関ではすでに行われていることを、いかに当院に導入するかを考えたにすぎません。外来が混む原因を一つずつ解きほぐして、他の病院のやり方を参考にしたり、人口に対する医師数といった客観的な数値を示したりして、院内の先生方やスタッフの皆さんと話し合いや勉強会を重ね、特に救急外来での業務配分の適正化を図ってきました。

――適正化とは、どういったことでしょうか。

 もともと私は、循環器内科医である一方、救急科医でもありましたので、院長にお願いして、循環器内科の他にも、主たる担当医師が不在だった救急外来業務に関わらせてもらいました。通常であれば、赴任すると月曜から金曜までみっちり専門外来をやることが多いかと思うのですが、あえて当初は循環器内科の外来を週2回だけにしてもらい、他の日は救急の業務やいろいろな仕組み作りに専念しました。

 また、当院患者サポートセンター長と、秋田県メディカルコントロール協議会北秋田地域協議会の担当も神谷院長から打診をいただきました。取り組みをスムーズに進めるためには、他の部署や各機関との関わりが重要だと考えていましたので、二つ返事でお受けしました。患者サポートセンター長としては市内開業医の先生方、福祉施設、地域包括支援センターと、メディカルコントロール担当としては消防や市の医療行政と密に関わることができました。

 院内においては、事務部門と一緒に当院の詳細な患者数や待ち時間などのデータ推移を取りまとめたり、他院を視察したりしつつ、そうした情報を基に企画書を作成し、医局の先生方や外来部門と対策を検討してきました。また、他医療機関では既に運用されている外来の予約化と逆紹介を徹底するために、開業医の先生方にダブル主治医体制をお願いして回ったりもしました。

 循環器内科医というより、マネジメントの仕事でしたね。マネジメントに関しては救急医としての経験が大きかったのかもしれません。同じ救急医でも臨床だけという先生もいらっしゃいますが、中には地域での仕組みを整えるために社会学的・公衆衛生学的な視野を持って他の機関と関わっていく先生もいらっしゃいます。私が大学病院にいたときに、そういった分野を専門とする先生から教えていただいた経験があったので、その影響を受けているのかもしれません。

――取り組みの成果はいかがでしたか。

 外来は以前ほど混まなくなりました。外来の予約化とダブル主治医の徹底だけでも混雑はかなり解消され、その後は各診療科の先生方も、入院治療や救急対応にしっかり時間を割けるようになりました。

 外来が混雑していた原因は、一般的に考えられているような患者数の多さや医師不足だけではなく、他医療機関が行っている取り組みについての情報が不足していたことも大きかったと思われます。そこを事務長や開業医の先生方と一緒に仕組みを整えてきました。

 当院に赴任してきた時点で私はすでに中堅以上の年齢であり、救急や循環器医療の専門医資格を持っていましたので、そういう点で私の意見が通りやすかったのかもしれません。かつ、私は中通総合病院と秋田大学医学部附属病院で仕事をしていた時期があり、他医療機関の状況なども知っていたので、救急業務のマネジメントに関して院内外から多くの情報収集ができ、スピーディーな業務改善につながったのではないかと思います。

――地域の医療関係者とはどのような連携を取ってきましたか。

 大館北秋田医師会、特に同会内の「鷹巣医師団」の先生方とは月に一回の定期会合があります。その中で当院の外来の混雑をどのように改善するべきかについてこまめに話し合い、互いの状況を報告し合いながら、医師会の先生方にお願いする形でダブル主治医体制を進めました。医師会としても、私が当院に赴任する前からかかりつけ医の課題に関しては周知されていたようなのですが、改めて患者サポートセンター長である私と事務長で、14軒ほどある市内の開業医・市立診療所の先生全てにお願いして回りました。

 ただ、これがまた5年後、10年後となると、地域住民・開業医の先生方の高齢化や患者減といった問題が進行し、また適正な形は変わってくるでしょう。引き続き意見交換を密に行いながら、調整をし続けていく必要があると考えています。

――先生は救命処置の市民公開講座で講師をされています。こちらも救急医療の課題解決に向けた取り組みの一つでしょうか。

 北秋田医療圏は、面積約1400キロ平米(東京都の約65%)というかなり広い地域でありながら、救急搬送先は当院のみです。近隣地域の医療機関も含めて、病院への搬送に1時間以上かかる場所が多く、救急車の到着を待って搬送するのでは遅いという声が地域からも聞かれていました。

 そこで、ぜひ住民の皆さんにも自分事として助ける側になってほしいということで、市民公開講座で救命処置の講演をしています。市民公開講座自体は当院からの提案ではなく、以前から消防や自治体で取り組んできたもので、市、医師会、当院がタッグを組んで、健康をテーマにした講話などを毎年行っています。自治体または医師会が主催で、主に当院の医師が講師としてお話をするという形です。そこに私も混ぜていただいて、AEDの使用や心肺蘇生、救急要請といった救命処置についての講演をさせていただいています。

 2019年に実施したときは650人ほどの参加者がありました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以降はそこまで大きなものは開催していませんが、けっこうな人数が集まります。地域の方々も医療には不安を持っていて、特に心臓血管の疾患に関して不安をお持ちのようです。

 救命処置の普及という目的だけではなく、意識障害を起こしている時は様子を見ずに早く受診してほしいとか、さほど緊急性のない方が夜間救急外来を利用すると本当に必要な患者さんの診療が不十分になるかもしれないとか、そういった市民啓発の目的もあります。あとは、私が結構人前で話すのが好きなので、講演などで声がかかった時は必ず引き受けるようにしているということですね。

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