私の考える総合診療とは−患者の”Happiness”は何か−

初めまして。CC2学生の齊藤景です。

 2024年1月29日から3月1日までのCC2 Ⅳ期で、総合診療・検査診断学講座を回らせていただきました。今まで「総合診療」とは、を曖昧に捉えていた私にとってどんな科なのかを実際目にして、改めて考える非常によい機会となりました。

早速ですがみなさんはPRO: Patient Reported Outcome (患者報告アウトカム)という考え方をご存知でしょうか?

米国食品医薬品局(FDA)が2009年に発行した“Guidance for Industry Patient-Reported Outcome Measures: Use in Medical Product Development to Support Labeling Claims” によると、A PRO is any report of the status of a patient’s health condition that comes directly from the patient, without interpretation of the patient’s response by a clinician or anyone else.” (Food and Drug Administration (FDA), 2009) 1

と書かれています。意訳すると、
患者が自分の健康状態や治療効果に関する情報を提供するための評価方法で、医療従事者をはじめとした患者以外の者はこの評価に介入することはできないというものです。PROは患者自身が自己報告する形で、例えばがん患者の治療中においては(もちろんそれだけに利用されているわけではないのですが)痛みに対しての症状スケール( the Wong-Baker FACES® Pain Rating Scale※2)を用いて今感じている痛みの程度を数値化して回答することができます。

他にも日常生活を行う際の身体的制限や障害がないか(例:歩行や階段の昇降、身の周りのことを自分でできる程度を評価)、自分の生活の質についての評価などがあります。これらのスケール・調査票に共通して最も大切なポイントは、患者の主観を貴んでいるということです。

 特に高齢者は自分の人生観を強く持っている場合も多く、医者が先導してこれからの人生をどう生きていくかを指導するのは度々難しいことがあるように思います。人生の最期をゴールと考えた時に、残りの人生をどう生きるかを考え、これから何をやりたいのか(例:好物を食べたい・習い事をしたい・旅行をしたい)/どう過ごしていきたい(例: 病院ではなく自宅でゆっくり過ごしたい)のか、患者一人一人異なる考え方を持っています。その考え方を尊重したうえで、医療的側面からのサポートを怠らないで、時にmodifyしていくことが重要です。

Primary careの考え方も総合診療を考えていくうえでは非常に重要です。日本プライマリ・ケア連合学会によると、「国民のあらゆる健康上の問題、疾病に対し、総合的・継続的、そして全人的に対応する地域の保健医療福祉機能」「地域の医療を担う菫要な役割を持つ」と書かれています。患者だけでなく患者の生活背景(例: 家族と同居している・買い物のために外出するのが困難・病院まで自家用車で通っている)を見る、地域全体を多角的に診ることが求められています。
精神的な理由や、置かれている生活環境・家庭環境を理由に医療を受けるにあたっての制限を余儀なくされている患者も時にはいらっしゃいます。例えば自身の健康状態を理由に自宅から出ることのできない患者が医療を受けることを望んでいる場合、訪問診療に行くという選択肢も浮かび上がってきます。

 私はCC2 Ⅲ期で地域医療実習の一環で、横手市大森町の市立大森病院にお世話になり、特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・グループホームなど施設訪問、各家庭に伺っての訪問診療を毎日のように見学させていただきました。また現在回っている総合診療実習では、広面にある秋田往診クリニックで施設訪問と家庭の訪問診療に同行させていただきました。

 訪問診療をこれから始めたいと考えられているご家庭への訪問からお看取りまでの様々なご家庭の様子を見学し、患者の感性こそが評価の対象、というPROが患者一人一人を診ていく上で非常に大事な考え方の一助になるのではないだろうか、と考えるようになりました。患者の”Happiness”とは何なのか、を重んじて共にベストなものを考えていく姿勢が総合診療には求められているのではないでしょうか。そしてその姿勢はこれからの社会のあり方に繋がっているように思います。患者がやってもらってよかった、と思ってもらえるような医療を提供できるような医師になりたいと強く思いました。

 この記事を読んで総合診療に興味を持った方、ぜひ秋田大学 総合診療・検査診断学講座が行っている取り組みの様子を実際に肌で感じていただければと思います。ありがとうございました。

※1 Food and Drug Administration (FDA), 2009 2009年食品医薬品局 (FDA) 法 (共和国法第 9711 号)

※2 患者が自分の経験している痛みを最もよく表す顔を選択する
   3歳以上の患者にも使用する
   第三者;親、医療従事者、介護者が患者の痛みを評価するために使用するツールではない

(the Wong-Baker FACES® Pain Rating Scale ウェブサイト 閲覧日:2024/02/27)