「 未来を担う若者達を育む~地域を診る医師としてのやりがい~」

はじめに

こんにちは。総合診療医の漆畑です。私は秋田県の五城目町という人口8000人ほどの町に住みつつ、近くにある100床ほどの病院で働いています。
ここでは医師を目指すみなさん、その中でも総合診療医に興味を持っているみなさんに、私が感じる医師としてのやりがいをお話ししようかと思います。読んだあとに少しでも興味を持ってくださる方がいたら嬉しい限りです。

「総合診療医」という仕事

みなさんは「総合診療医」という言葉を聞いたことがありますか?詳しい説明は別のページでされていると思いますが、患者さんの病気だけでなく、心理社会面や家族も含めて(包括的に)診る医師のことで、日本では昔からかかりつけ医と言われていました。そのかかりつけ医が行っていた事を教育として受け、試験を通り認められた者を総合診療専門医と呼びます。似た言葉に家庭医療専門医というものもありますが、この違いに関しては本題ではないのでここでは割愛します。

さて、総合診療医は包括的に診る医師という説明をしましたが、みなさんは包括的に診るってイメージできますか?

例えば一つ例を出しましょう。50代の女性の方が、息が苦しくて病院の外来を受診したとします。話を聞くと熱はなく、風邪ではなさそうです。診察の結果、気管支喘息と診断しました。では吸入の薬を処方してそれでおしまい、で良いでしょうか?

包括的に診る、は心理社会面や家族もでしたね?

先程の女性に関して詳しく聞いてみたところ、気管支喘息が悪化した原因として、高校生になる子供の受験でストレスが溜まっていた事、また夫の両親の介護も重なり忙しく、定期受診が出来ずに薬が無くなっていた事、さらに介護に通う両親の家は埃っぽく、さらにさらに義理の父はヘビースモーカーだった事などが分かりました。

そこで両親の介護保険の申請を進め、介護サービスを利用する事で両親の家の環境が改善され、介護負担も減り、気管支喘息も落ち着いてきました。

これは仮想の症例ですが、同じように患者さんの病気に心理、社会面が影響してくる事はよくあり、総合診療の世界では生物心理社会モデルと言われています。病気以外の事まで考えるのは正直大変ですが、原因をどうにかしない事には症状は落ち着かず、患者さんは何度も呼吸苦で受診を繰り返す事になるでしょう。目の前で苦しんでいる患者さんの背景に広がる生活まで目を向けて診療をするのが総合診療医の醍醐味です。

「地域を診る」

私が特に興味を持って取り組んでいる分野が「地域志向ケア」と呼ばれる領域です。患者さんの生活だけでなく住んでいる地域まで診るという事ですね。どういう事でしょうか?

地域と言っても同じ日本でもそれぞれ特徴があり、それによって健康問題も異なります。例えば私は以前、東京都北区で働いていましたが、東京では外国人が多く、日本語が不自由な彼らをどうケアするか苦心していました。しかし五城目町にはほとんど外国人はいません。ただ東京と比べて自然の影響を受けるのか、田植えの時期は腰痛の患者が増え、冬の時期は動かないので患者さんの血圧や血糖が上がったりします(あと、みんな干し柿が大好きです)。地域の健康問題に取り組む事は、目の前の患者さんはもちろん、より多くの方の健康に寄与することができます。

漆畑

ちなみに最近では「健康の社会的決定要因」と呼ばれる健康問題に起因する社会的な要因も明らかになっており、例えば「食品」、「交通」、「労働」、「ソーシャルサポート」などが挙げられています。特に新型コロナウイルス感染症が広がる中、地域で行われていた高齢者のサロン活動が軒並み中止となり、その影響で家に引きこもり、体力が落ちたり、認知症になったりする人が多いと言われています。感染症も怖いけれど認知症も怖いですよね。そのため私は、五城目町のサロンにお邪魔し、どうやったら安心・安全にサロン活動が出来るのか話をして、ソーシャルサポートの課題に取り組んでいます。これは一人ではできないので町の包括支援センターの方々と協力して取り組んでいます。正直、医者一人では出来ない事も多いのですが、多職種の方と連携する事で地域を健康にする取り組みにチャレンジする事ができ、そのチームプレーと地域の健康に関わるのも総合診療医のやりがいだと思います。

そのほかにも在宅診療に携わる事で患者さんが最後まで慣れ親しんだ家で過ごす事をサポートするのもやりがいですし、生活習慣病の患者さんとどうすれば数字が良くなるか一緒に悩む毎日もやりがい?です。

おわりに

以上私の経験ですが、読んでもし総合診療に興味が出た方がいれば、ぜひ気軽に連絡してください。見学に来てもらった時には病院の診療はもちろん、一緒にサロンに行きましょう。総合診療の奥深さ、楽しさを感じてもらえると思います。

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