初めての学会で学んだこと

秋田大学医学部医学科3年 田中 静音

〇はじめに

愛知県で5月12日~14日に行われた「第14回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会」に参加してきました。学会への参加自体初めてのことで不安な部分や分からない事も沢山ありましたが、総合診療医センターのご支援のお陰で充実した時間を過ごすことができました。総診の皆様、この度もお世話になりありがとうございました。

さて、私は今回が初めての学会だったためよく知らないのですが、なにやら通常よりもカジュアルで楽しい感じのものだったそうで。実際会場にはお堅めな発表に加え、グループセッションやワークショップ、さらには座禅コーナー、お灸コーナー、アートコーナー、キッチンカーコーナーなどなど、楽しい企画が盛りだくさんでした。(どこからどこまでがイレギュラーなのかはわかりません(笑))特に印象的だったいくつかの内容について書いていこうと思います。

〇キャリアCafé~島及び僻地医療委員会~

両日ともあるブースで常に「キャリアCafe」が行われていました。私は離島医療に興味があるのでその中の島及び僻地医療委員会編に参加してきました。離島医療をしたいとは言っているものの、実は島に行ったことがあるわけでも島医者に会ったことがあるわけでもなく、、(笑)実際に島で働く方々や離島医療を志す学生と会うのは今回が初めての経験でした。

予想通りだったのは大きく二つです。一つは皆さん楽しそうで活き活きしていたという点です。もう一つは“医者”という職業にとらわれず、島をより良くするために他の活動をしている方もいたという点です。想像通りとても楽しそうでワクワクしてしまいました!

予想外だったのは、若い先生が3~4年周期で各島の病院を回っている、そしてそれが島民にとっては普通のことであるという点です。さらには島を回った先生の多くは研修が終わったら離島医療をせずに他の場所へ行ってしまうとのこと・・・私がまだまだ知らない事があるとのことで、これは島の病院で実際に実習をしてみて詳しい仕組みや雰囲気を体験してみないといけないなと感じました。

僻地で医者不足だという話に対して、オーストラリアの大学に通う六年生の先輩が意見をしていたのも印象的です。その大学では二年生の頃から地方の病院に赴いて診察を行うそうです。当然二年生ですから大したことはできないけれど、患者さんは医学生が自分の街に来てくれること自体を喜んでくれ学生はその経験を通し地域医療に魅せられていく、それで自然にへき地医療を選択していくとのことでした。先輩が話していたオーストラリアの地域医療の在り方は新鮮で面白くてとても興味をそそられ、他国の地域医療について学んだり、留学をしてみたりしたいと思いました。

もう一つ驚いたのが、島医療の話を聞くために行った場所で、途上国で働いていた経験のある看護師さんや今後途上国でも活動しようとしている先生に出会えたことです。私はもともと途上国で働きたくて医師を目指しました。しかし途中で日本の地域医療の方に興味が移り今では途上国でという気持ちは無くなっていました。しかしこの機会にお二人と話してみて、離島医療と途上国医療が紙一重であるという事、人生は案外長くて一つに絞らなくてもやりたい事にいろいろ手を出してみて良いのだという事に気が付かされました。とりあえず学生の間に途上国ボランティアに行ってこようと思います!!

〇総合診療のニューノーマルを語り合おう~新時代の幕開け~

秋大総診の渡部先生が主催ということもあり、上記のグループセッション型の企画に参加してみました。地域、教育、研究など5つのテーマごとにグループになりそれぞれのテーマについて話し合いました。私は“地域”のグループに参加しました。

まず司会的な先生が日本の地域の現状について話してくださいました。その上で地域の課題について話し合いが始まりました。今回取り上げられた課題は、人口減少と食料自給率です。なんだか100年後には日本の人口は0になるらしいです。あと食料自給率が低すぎて、日本人が餓死するかも知れないらしいです。そしてそこからまた専門的な知識での議論が始まりました・・・私が持っている知識と言えば高校までの授業で学んだレベルで、大学入学後は外でのフィールドワークばかりだったため、そのディスカッションに全くついて行けませんでした。自分の勉強不足を痛感させられる時間でした。先生方には私が現在行っている外に出て活動するスタイルが素晴らしいと仰っていただけましたが、やはり先生方のように専門的な知識も身につけた方がよりスキルアップになるのだろうと思います。今後は本や論文を読んでみたり調べものをしてみたりもしていこうと思います!!なんだか自分らしくない気もしてくすぐったいですが・・・(笑)

〇地域志向アプローチワークショップ~みんなで共有!地域ケアのエッセンス~

私の師匠(非公認)である漆畑先生が主催された、こちらのワークショップも見学してきました。地域活動をするにあたって、地域の人と関わるきっかけをどうつくるか、その活動をどう継続していくか等など様々な課題に直面します。それらに対してどうアプローチしていくかを体系的にしようという研究の一環のようでした。けれど私の持論的には、人は十人十色であるからマニュアル化してしまったらそれぞれの個性に対応できないではないか、師匠(非公認)は何をお考えなのだ、、、という感じでした。

「この課題にぶつかったらどう対処しますか」というような形で話し合いが始まりました。それを聞いていくと、なるほど、そんな方法があったのか、と新鮮なアイディアがたくさん出てきます。面白いのは、うちは外国人が多いから~とか、うちはスナックが多いから~とか地域性があることです。今後初期研修や就職で未開の地へ行き戸惑った際に、こうしたマニュアルというか体験談があるとスムーズに街に溶け込めるのだなと思いました。

また衝撃を受けたのが「元々のコミュニケーション能力が高い人が地域活動をできるのであってそうでない人には厳しい」という内容の発言でした。医療者が行う地域活動は重要なものであるという認識は共通して持っているものの、実際にそれが可能なのは人間関係構築能力が高い人だけであるというのです。そんなこと考えたこともありませんでした!!師匠によればそれは代々の積み重ねで補っていくべきとのことです。実際、私が普段活動している五城目町に溶け込めたのも、先にそこで信頼を築かれていた漆畑先生がアテンドしてくださったお陰です。また、この研究で完成する予定の☆もこういった場合に役立つのだろうと思いました。

〇医療とアートの学校

常設の展示がいくつかありましたが、「医療とアートの学校」は特に面白かったです。この前アートで報告会を行ったこともあり、「アート」と聞くとワクワクするようになりました(笑)

まず見たのは病院の壁に絵を描こうというものです。真っ白な壁は「ザ・病院!」みたいな感じがして怖いものです・・・その壁にプロの絵描きさんが大きくて素敵な絵を描き患者さんや医療従事者の気持ちを明るくしようというものでした。

次に照明の会社の展示を見ました。照明って意外と深くて、色見や明るさで照らされるものの雰囲気が変わるんです!!例えば、ご飯を美味しそうに魅せる照明にすると、患者さんがご飯を残さず食べるようになります。また照明を一日の中で朝っぽいもの、昼間っぽいもの、夕方っぽいものと変えていくことで、病院や施設の中にずっといる人の体内時計を整えることもできます。と聞いて感動しました!!!

それ以外にも木のオブジェにリボンを結ぼうとか短冊に願いを書こうとかプロに褒めちぎられながら似顔絵を描こうとか、たくさんの体験型展示があって楽しかったです。前回の報告会でも思いましたが、アートには言葉じゃ表現しきれない心の“余白”の部分を伝えたり動かしたりする力がある気がします。だとすれば言葉にするのが苦手な人や子供、異なる言語を話す人など世界中の人とのコミュニケーションに利用できます。アートが持つそんな大きな希望を改めて感じられたブースでした。

〇その他

認知症体験もしてきました。VRで認知症の方の世界を体験するというものです。すごく面白くて、例えば黒いマットが認知症の方には穴に見えるそうです。ただ健常者はただの黒マットにしか見えませんから、そこを通らせようとします。それが認知症の方には「自分を穴に落とそうとしている」という恐怖に感じるそうです。こうした感覚はもっと広めていくべきだなと思いました。

またハンドマッサージ☆コーナーにも行ってきました。ココナッツオイルをつけ手をマッサージされていると、不思議と初対面の方なのになんでも話せる気がしてきます。私はそこで初めての学会がどうだったかとか、その上で今後何をしたいかとか、どんな医師になりたいかとか、ぽつりぽつりと話してしまいました(笑)ハンドマッサージパワーだと思います!私も今後地域の方に心を開いていただけるきっかけ作りのためにハンドマッサージの資格を取りたいです!!

〇まとめ

ここには書ききれないほど他にもたくさんの体験をさせていただきました。これまで二年間様々なことをしてきたつもりですが、その中でも特に学びの多い時間でした。そして、もっといろんな世界を知りたい、勉強したい。私も学会で発表したい。島暮らしや島の病院見学もしてみたい。海外留学もしたいし途上国ボランティアにも行ってみたい。だから英語を話せるようになりたい・・・等々、やりたい事やそのためにやらなきゃいけない事がたくさんでてきました!

今までふわっと活動していた私にとって、こうして明確な目標ができたのは大きな収穫です。紹介してくださった漆畑先生やアテンドしてくださった渡部先生に本当に感謝です。また当日お世話になった先生方、先輩方のお陰で充実した時間になりました。ありがとうございました。この経験を無駄にしないよう、今後さらに精力的に活動していく所存です。皆様、今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。