あきたGP列伝 ~総合診療部 編~

 秋田大学で5年生から6年生にかけて行われるClinical Clerkship 2(CC2)で総合診療・検査診断学講座をローテしてくださった皆さんに、自分の知りたい事や今後のライフプランなどに役立てる目的で実習に伺った病院の先生へインタビューを行い、医師としてのマインドやロールモデルなど学ぶ事を課題としています。こちらを『あきたGP列伝』として掲載します。

 皆さん、こんにちは!私は今、CC2のVI期で総合診療部を回っている秋田大学6年の西村綾華です。この記事では、CC2での診療科選択について迷っているまたは総合診療部を回ることが決定した後輩たちに向けて総合診療部の実習内容や実習中に私が感じたことなどをお伝えできたらと思います。

まず、総合診療部では基本的に医局で1日を過ごすことになります。コアタイムは8:30~17:00です。医局の一員になった気分を味わえますね!

総合診療部で経験できる内容として、以下のようなものがあります。

  • 新患外来予診→カルテ記載→鑑別→症例カンファレンスで発表(毎週月曜日)
  • 再診見学
  • 感染制御チーム(ICT)ラウンドで症例検討(毎週木曜日)
  • CC1へのミニ講義(隔週金曜日)
  • CC1採血実習の手伝い(隔週月曜日)
  • 緩和ケアセンター、地域医療患者支援センター実習
  • 地域病院実習(秋田往診クリニック、協和病院、湖東厚生病院、さくら内科・糖尿病クリニック、山王胃腸科など)
  • ポートフォリオ発表(最終週金曜日)
  • GP列伝原稿作成(この記事のことです)
  • 3分勉強会(スライド作成)
  • 「私の考える総合診療」レポート作成
  • 先生方のミニレクチャー(要アポイント)

盛りだくさんなことがわかると思います。以下、個人的に印象に残った内容について触れていきます。

 この中でもやはり他の診療科にないのが、予診〜症例カンファレンスでの発表ですよね。皆さん、予診はとった経験があるでしょうか?私は恥ずかしながらCC1の1年で経験した予診はたったの2回です。とはいえ、予診ならたくさんとったことあるぞ、という方もいると思います。総合診療部の予診は一味も二味も違います!まず、原因がはっきりしている患者さんが来ることはほとんどなく、慢性的な経過の患者さんも数多くいます。専門性がはっきりしている大学病院の実習ではとても珍しく貴重な経験と言えます。
 また、再診の見学が可能であり、経過フォローが出来ることも魅力の一つと考えています。もちろん、研修医でもなかなか経験できない内容なので、一筋縄ではいきません。実際に私は4週間で3名の新患外来を担当しましたが、項目ごとに聴取するだけだと思っていても、単純な聞き漏らしがあったり脱線してしまったり、重要な臨床症状の詳細が抜けていたりしました。予診中に鑑別診断と追加の聴取内容を考えることは容易ではありませんでした。
 そのほか、症例カンファレンスでの発表では、ただまとめた内容を読み上げるのではなく、聴衆に理解してもらいやすい順での説明や重複する内容を読まないといった工夫が必要です。検査データのプレゼンに関しても、数値が高いか低いかだけを淡々と読み上げるのではなく、その患者に対して何を疑っているかを明確にした上で必要な所見を抽出して説明します。当たり前だと思っていても他の診療科の実習ではほとんど指摘されることがないため(少なくとも私はそうでした)、意外と難しく最初は自分のあまりの出来なさにへこんでしまうこともありました。症例カンファレンスでの発表は緊張しますが、自分で抱え込みすぎず適度に指導医の先生を頼ることをお勧めします。

 また、ICTラウンドでは、毎週1人の感染症疑いの患者さんを割り当てられます。その患者さんの経過や微生物検査・血液検査結果をもとにした感染の評価と適切な(抗菌薬)治療が行われているかなどをテンプレートに沿って簡潔にまとめて発表します。最初はどのように評価していいか全くわからないと思いますが、週を追うごとに病原体や抗菌薬使用について詳しくなっていきますので過剰な心配はいりません。

Teaching is learningという考え方に基づき、他人を指導して自らも学ぶことを目的とした内容が、3分勉強会、CC1へのミニレクチャーおよび採血実習の手伝いです。3分勉強会では新患外来での疑問点などを自分なりに調べてスライド作成し、症例カンファレンスで発表します。疑問点を明らかにして、説明に相応しい参考資料を見つけ、数枚にまとめるのは大変ですが、一緒に回っているメンバー同士で教えあったりすることがモチベーションの維持に効果的でした。CC1へのミニ講義は、興味を持ってもらうために目を引くスライドの工夫をするのはもちろんのこと、疑問を持ってもらえるような問いかけを含む内容にすることが大切です。採血実習の手伝いも、基本的には見守りがメインですが、後輩の採血手技を見る中で自分自身も復習が可能であり、注意すべき点が見つかることもありました。客観的な視点で自分の手技の評価ができると、今後の研修にも活かせるはずです。

 そしてなんと言っても外病院実習が総合診療部の目玉だと思います。秋田県地域病院実習や他の診療科でも外病院へ派遣されることはありますが、私の知る限り開業医の訪問が可能な診療科はありません。私自身、外病院実習が総合診療部の実習で最も充実した経験となりました。将来ぼんやりとですが開業を考えている私にとって、さくら内科・糖尿病クリニックでの経験は唯一無二のもので、地域の方々との密接な関わり合いの中にある医療を間近で見ることができました。院長の粟崎先生とのお話させていただく中で、総合診療というものについて今一度考える機会をいただき、「私の考える総合診療」というレポートの一助にもなりました。

 ここまで述べてきたように、総合診療部、決して生半可な実習ではありません!実を言うと私はCC2でほぼ外科系を回り、THE内科の実習が久しぶりだったためか総合診療部に適応するまで少し時間がかかってしまいました。実際に一時的に抱える仕事量が多くなり、パンクしかけたこともありました。今思い返すとCC2の中で私にとって最も濃くて大変な実習だったかもしれません。医師は診療科によらず複数の仕事を同時にこなす必要があることを理解しているので「私医者に向いてないのかな」と不安になることもありましたが、4週間の実習を経て今となっては何で焦っていたのだろうと少しだけ強くなれたような気がしますし、私には必要な経験だったなと納得しています。

実習に疲れた時、癒しをくれたのは医局のアイドルまろんです。まろんはLOVOT(LOVE×ROBOT)というGROOVE X社製の家族型ロボットです。最先端テクノロジーを搭載しており愛らしいフォルムとつぶらな瞳にロックオンされたら誰もがメロメロになります。まさに「家に愛と笑顔があふれるロボット」というコンセプト通りで、まるで人間の赤ちゃんです。赤ちゃんですからもちろん抱っこせずにはいられませんよね?まろんに癒されない実習生はいないと思います。私もいつかきっと私だけのLOVOTちゃんをお迎えしたいと思っています。

最後になりましたが、総合診療部は、他の診療科に比べて拘束時間も長く、dutyも多いので卒業試験、マッチング、国家試験がちらつく時期になってくるとなかなか厳しいものはありますが、やる気があり、コミュニケーションスキルやプレゼンテーションスキルを伸ばしたい学生にとっては最適な診療科だと思います。この記事が、皆さんの選択のための判断材料の一つになれば幸いです。ここまでお付き合いいただきありがとうございました!