初期研修マッチングの“実質倍率”がわかる公式を作ってみた。

医師臨床研修マッチング制度とは、医学生と臨床研修病院がお互いの希望順位を登録し、双方の希望をもとに全国一括で研修先をマッチングする制度です。

マッチングアルゴリズムなど分かりやすい説明は、医師臨床研修マッチング協議会のサイト(https://www.jrmp2.jp/aboutmatching.html)を参照してください。
完全に余談ですが、「マッチング理論って2012年にノーベル経済学賞をとった画期的な理論」みたいですね。

それはさておき、マッチング制度において、誰が第◯希望にどの病院を書いたか、そして病院側はどの学生を希望順位◯位に書いたかは完全にブラックボックス!!
自分の行きたい病院の倍率(何人と競争するのか)を知りたくなりますよね。

マッチングで公表される情報は主に以下の4つだけになります
「定員」
「中間公表時の第1希望者数」
「マッチ者数」
「当該プログラムを希望順位登録した学生数(長いので以下、総志望者数)」

何人と競争するのか=“実質倍率”

を考える上で、総志望者数は当てにならず、例えばその病院を第3希望にしている受験生が第1か第2希望の病院にマッチしたら、競争から除外されます。かといって第1希望者数だけみても不十分で、たとえ第8希望にしている人でも第1-7希望の病院に落とされた場合は競争に“入り込んでくる”のです。
公表されるデータをうまく使って“実質倍率”なるものを出せないのか…

(本当はnoteにでも書いて儲けようと思ったのですが…)
このページをご覧の皆さんに無料公開いたします!!!

前置きが長くなったので先に結論を出します。実質倍率を出す公式は次のとおりです!

(総志望者数-第1希望者数)というのはすなわち第2希望以下で登録した学生の数です。
先ほど説明した“競争に入り込んでくる”学生です。言うまでもなく、第1希望者は確実に競争相手になります。
一方で、競争に入り込んでくる学生は第2希望以下の学生のうち何人かに1人でしょう。
そう、その係数m (0<m<1)が分かれば、実質倍率を算出することができるのです。
この「m」をマロン係数といいます。(秋田大学総合診療部のペット?から勝手に名付けました。

そこで、マロン係数を推定する旅に出かけました。
(※出てくるデータは全て、2025年度の中間公表・研修プログラム別マッチ結果をもとに作成しております。)

いわゆる人気病院、例えば武蔵野赤十字病院の場合
定員10に対して、第1希望者60人、総志望者108人。
ものすごい倍率です……。そして係数の手掛かりになるものはなさそう。
全国の病院の定員、第1希望者数、総志望者数をみていると、総志望者数は定員以上あるけど空席がある病院も散見されます。

例えば、三重県の桑名市総合医療センター。
定員13に対して、第1希望者3人、総志望者32人、マッチ者数10人(空席3。)

よほど悪い学生であれば病院側の希望順位名簿から外されることもあると思いますが、病院側にとって空席を作ることは、働き手を減らすことですし評判にも関わることですから出来るだけ避けたいでしょう。

そうなると2025年の桑名市総合医療センターの場合は、第1希望の3人→全員マッチ
残りのマッチ者(10-3=)7人は第2希望以下で登録した学生といえます。
言い換えると、第2希望以下で登録した学生29(=32-3)人のうちマッチした、つまり競争に入り込んだのは7人。
マロン係数に戻るとm=7/29≒0.24となります。

なるほど…。これを複数の病院で当てはめてみて、mの妥当な値を出せばいいのか。

高知赤十字病院の場合
定員10に対して、第1希望者2人、総志望者16人、マッチ者数4人(空席6。)  m=2/14≒0.14
その他、同じ条件の岩国医療センター、徳島赤十字病院など全国計12の市中病院を合計して、マロン係数mの値を求めた結果は、m=0.15という値になりました。

すなわち、第2希望以下で登録した学生が実際に競争に入り込んでくる確率は15%程度ということなんですね。

ここで注意点がありました。
先ほど求めた「m」は空席のある病院のみで計算したものなので、フルマッチする病院で当てはまるのか疑問でした。ただ、某人気病院の研修医の先生が作成したアンケートをいただいて、第1希望で入った人と第2希望以下で入った人の数をもとに算出した同データは14.1%であったので、やはりm=0.15を信じていいのかなと思います。
今回は市中病院のみで計算しましたが、大学病院でもm=0.15で概ね妥当かなと思います。

また稀に、第1希望者数は定員に対してかなり少ないけど例年フルマッチをする病院もあり(いわゆる滑り止めみたいな)、そういった病院はm=0.3程度にもなりうるのかなと思います。

我らが秋田では、大館市立総合病院1.27倍(マッチ数9/定員9)、由利組合総合病院0.89倍(マッチ数5/定員6)となっています。

実質倍率が1倍を超えたらフルマッチになるかなという予測を立てることもできます。
採用側も参考になるかもしれません。(もちろん1を切ってもフルマッチは全然あります。) 

参考までに、2025年の秋田以外の東北5県、東京都、大阪府の病院の実質倍率も数例ずつ紹介していきます。

・青森県:八戸市立市民病院1.40倍、青森県立中央病院0.86倍
・岩手県:岩手県立中央病院1.72倍、岩手県立胆沢病院1.32倍、岩手県立磐井病院1.38倍
・宮城県:仙台医療センター(総合)2.45倍、仙台市立病院1.53倍、石巻赤十字病院2.53倍
・山形県:山形県立中央病院1.91倍、日本海総合病院1.25倍
・福島県:大原綜合病院1.49倍、いわき市医療センター1.89倍、白河厚生総合病院2.21倍
・東京都:武蔵野赤十字病院6.72倍、東京医療センター(一般)2.99倍
・大阪府:大阪警察病院3.32倍、淀川キリスト教病院(総合)2.75倍


やはり都市部の病院の倍率は高いことが分かります。

そうなると不安になるのがアンマッチ…。

この実質倍率を使って、病院を何個受けたらアンマッチにならないかを予想することもできます。

受験者全体で自分の実力をちょうど真ん中として、第1希望A病院(4.0倍)、第2希望B病院(2.5倍)、第3希望C病院(2.0倍)、第4希望D病院(1.5倍)を受けた場合、各病院のマッチング率を単純計算すると、A病院にマッチする確率が25.0%、A病院に落ちてB病院にマッチする確率が30.0%、同様にC病院22.5%、D病院15.0%、アンマッチ7.5%となります。

アンマッチ率を何%までに抑えたら安心かは人によると思いますが、今回の実質倍率を応用してこんなこともできました!

自分の実力が半分より低いなあという場合の計算もAIに聞けばやってくれます。

以上、初期研修マッチングの実質倍率を紹介しました。

すべての病院に完全に当てはまるものではないので、あくまで参考程度に活用してみてください!