2025.12.09 Tue
第15回プライマリ・ケア連合学会 東北ブロック支部学術集会 参加報告

先日、プライマリ・ケア学会東北ブロック支部の学会に参加してきました。
地域医療や総合診療の役割、臨床現場ですぐ使える知見や考え方が凝縮された有意義な会合で、私自身も口頭発表の機会をいただき、幸いにも優秀賞を頂戴しました。
本稿では学んだことの要点と、秋田の現場で私が実践しようと考えていることを整理してお伝えします。
基調講演
日本プライマリ・ケア学会 副理事長の前野哲博先生からは、これまでの地域医療構想の変遷と新たな考え方について示されました。
旧地域医療構想は2014年の医療介護総合確保推進法に基づき、団塊世代が75歳以上となる2025年のを見据えて、医療費抑制と効率化を目的として策定された。
救急・高度医療を提供する急性期病院は集約化・病床を削減して亜急性期・回復期病床は地域に残し、療養・在宅にシフトする「病床機能分化・連携」が強調されていた。新地域医療構想では人口減少・高齢化の進展、地域差の拡大を踏まえ、単なる病床削減ではなく、地域ごとの医療提供体制を持続可能にするという目的で策定されました。
急性期医療は集約しつつも、地域包括ケアとつながる「地域包括医療病棟」や総合診療医を軸に、地域に必要な医療機能を持続可能に配置する方向へとシフトしました。
地域包括医療病棟とは高齢者の救急患者等に対して、一定の体制を整えた上でリハビリテーション、栄養管理、入退院支援、在宅復帰等の機能を包括的に提供します。まさに総合診療医が普段行っていることそのものです。
さらに2040年には診療所が全国で半分以下となる地域が多く、単に総合診療医を育てるだけでなく、総合医育成プログラムや臓器別専門医のリカレント教育を組み合わせ、開業医も含めた“かかりつけ医機能”をどう保つかが課題になる、という議論でした。
プライマリ・ケアで使えるTips── 臨床の“当たり前”を磨く
大会長である弘前大学大学院医学研究科救急災害・総合診療医学講座教授の花田裕之先生の講演では、救急・災害・総合診療の現場で役立つ実践的なTipsが多数紹介されました。
印象に残った点をいくつか挙げます。日常会話の変化に敏感であること:普段のやりとりと比べて“ほんの少し”の違いを見逃さない。なんとなく引っかかる患者にも注意し、データが予想とハズレた場合に原因を追求する。経過を味方にする:症状や疾患の重症度を記録しておくことで、悪化・改善の判断がしやすくなる。患者に常に選択肢(オプション)を用意する:治療やケアの選択肢を提示し、患者・家族と共有することが信頼につながる。医療資源(専門医の配置など)をおさえて、適切なコンサルトを行う。これらは目新しい技術ではなく、むしろ「当たり前のプロセスを丁寧に行う」ことの重要性を再確認させられる内容でした。
総合診療・家庭医の専門性とは
六ケ所村医療センターセンター長である松岡先生は家庭医・総合診療医の専門性の本質について、McWhinneyの原理を踏まえながら解説されました。
特に心に残ったのは、専門性の定義を“何をしているか”で示すという視点です。
目的:患者が自分で定義する「病い」からの回復、そしてwell‑beingへの復帰
方法:PCCM(Patient‑Centered Clinical Method)を中心とした技術群
継続性:技術研鑽と医療関係性、地域とのつながりの維持
また、医師自身が患者の背景(FIFE:Feelings, Ideas, Function, Expectations)や患者や家族の「物語(narrative)」に触れることで医師自身が動かされ、診療の方向性や介入の選択に影響を受けるnarrative drive、患者を支える家族・地域・医療資源・多職種チームとつながることで医師自身が動かされ、行動するnetwork driveが、薬物療法にとどまらない包括的介入につながるという点が強調されました。
要は、患者の背景を深く知り、共感的に介入する「関係性の医療」が総合診療の核心だと再認識しました。
私の口頭発表と受賞について
今回、私も口頭発表の機会をいただきました。テーマは**「COVID-19罹患後まもなく発症したリウマチ性多発筋痛症の一例」**です。
COVID-19罹患後の自己免疫疾患発症という現象を臨床経過から整理し、感染初期の筋骨格系の疼痛と紛れて早期発症のリウマチ性多発筋痛症を見逃さないことの重要性について発表しました。
みなさまから抄録、予演会での建設的で有意義なフィードバックを多く頂いたお陰で優秀賞を受賞することができました。

受賞は大変光栄であり、同時に秋田での日々の診療が評価されたことを励みに、さらに精進していく決意を新たにしました。
終わりに
今回の学びは、日常の診療プロセスを丁寧に行い、患者と地域のニーズに応じて柔軟に役割を広げることの大切さを改めて教えてくれました。
今後自分で実践した学びを共有し、地域の診療力向上に貢献していければと考えています。
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田染 翔平