病院総合診療医学会 in 広島―レモネードの旅

逃げる二月。周期的に押し寄せる寒波に、どうしても身も冷え込み心も委縮しがちな時期です。

折角の3連休なのに…という愚痴を飲み込んで、第30回日本病院総合診療医学会学術総会兼 第20回若手医師のための冬期セミナーに乗り込みました。

舞台はレモンの名産地・広島

始めに、総合診療界隈の裏事情をお話しすると…
総合診療系の学会の二大巨頭として、病院総合診療医学会とプライマリケア連合学会が存在します。しかし、専門医取得のための単位すら完全には統一されていません。今までは学術集会も各々バラバラに開催されていました。
そういう意味で、今回の合同開催は歴史的な大イベントのようです。

「病院総合診療医」と「家庭医」のどちらになるか、この記事の執筆時点で未だに揺れ動いている私。
欲張って両方の学会に所属しているのですが、病院総合診療学会のオフラインイベントには今まで参加できていませんでした。
そんな中、今回の歴史的学会が、私にとっても初参戦となりました。

                                              

今回の会場は、広島平和公園の敷地内でした。
原爆爆心地を通過し、原爆ドームを遠目に眺め、原爆の子の像の横を通って、いそいそと会場に突入。

会場では、
診断推論の症例検討会に首を捻りながら耳を傾けたり、
オンライン記事でも拝読していた、「不確実性の高い (≒分からないことだらけの)状況」の切り盛りについてのレクチャーに推し活気分で噛り付いたり、
ワーク・ライフ・バランスを説くランチョンセミナーの傍ら、お弁当に舌鼓を打ったり、
企業ブースのアンケートに答えてレモンケーキを賜ったり。

懇親会でも広島の美味にたくさん出逢えました。

                                              

こんな感じで、1~2日目は実りある時間を過ごせました。

――が、移動日の3日目に事件が勃発したのです。

まずは悪天候により、空港に向かうリムジンバスが運転見合わせ
電車や臨時バスを訳も分からぬまま乗り継ぎ、辛くも空港に着きました。

着いた途端、今度は飛行機遅延のお知らせ。
同じ航空会社の後続便はすべて満席で、急遽別会社の便に変更を余儀なくされました。
結果、夕方に戻れる予定が夜中まで帰れないことが確定し、それぞれの空港で数時間待たされることに。

慣れない土地での旅に疲れ切っていた私は泣きべそ状態でした。
しかし、この時私の脳裏をよぎったのです。
学会で拝聴した、「不確実性」の講義が。

情報不足、経験不足、確率の不確かさ…
様々な理由から起こる「どうすればいいか分からない!」という場面は、生きていれば無数に経験するものです。
ことに医療業界では、そういった場面における決断は重大です。患者の健康や生命に直結するのですから。

この学会で聞いた講義の一つでは、そのような不確実な場面で取るべき行動を説いていました。
Effectual Diagnostic Approach (EDA)という、経営学の理論を医療に応用した方法です。

このような5つの原則から成っています。
飛行機の遅延により空港で数時間潰さなければいけないという、予期せぬ事態。
こんな時こそDrink Lemonadeの精神です。
絶望ばかりしていても帰宅時刻は変わりません。使えるものは利用して、この事態をレモネードにして美味しく飲んでやろうと決めました。

広島空港では、航空会社から遅延のお詫びにお食事券を頂きました。

何に使おうか考えた結果、秋田にないファミリーレストランが入っているのを見つけ、迷わず入店。

早めのおやつタイムと洒落込むことにして、果物モリモリのパフェを堪能。

羽田空港に降り立つと、ターミナル間の移動に翻弄され、あっという間に夕方。

家に着くころには身を清める時間も体力も無いであろうことが目に見えていたため、有料シャワールームなるものを利用してみました。

お昼のパフェ以上のお値段には愕然としましたが、シゴデキなビジネスマンの気分に浸れました。

最後の飛行機から降りる頃には起きているだけでいっぱいいっぱい。
気合ひとつで家まで車を飛ばしながら、シャワーを済ませておいてよかったと心から思いました。

                                               

今回の旅では、レクチャーでの学びもさることながら、「予想外」に対する(妙な)経験値が得られた気がします。
スーツケースから取り出したレモンケーキを眺めつつ、レモネードにして飲み干した旅路を振り返りながら眠りにつきました。
そして翌朝は「予想通り」眠気と疲れを引きずりつつ、いつも通り仕事に出掛けたのでした。