総合診療とは?多角的な視点で患者さんと向き合う総合診療科実習の体験から

秋田大学医学部医学科5年次 江畠郁弥

総合診療科という言葉を初めて耳にしたとき、私には具体的にどんな診療科なのか想像がつきませんでした。大学入学前にはほとんど知られていなかったこの分野。医学を学び始めたばかりの私には、なぜ医療の現場に「総合診療」が必要なのか、なぜ他の専門科と異なるのか、分からないことだらけでした。

しかし、実習を通してこの分野に触れ、実際に患者さんと向き合い、多くのことを学ぶ中で、今では総合診療の意義が心に深く刻まれています。この記事では、そんな実習体験を通じて私が感じた「総合診療の魅力」と「学び」を共有し、総合診療の可能性に少しでも関心を持っていただければと思います。

総合診療の役割:患者さんを「全体」で見る診療

総合診療は、他の診療科と違って特定の臓器や疾患だけに特化せず、患者さんの「全体」を見ることを目的としています。症状がどの臓器から来ているのか分からない、複数の症状が重なっている、他の科では診断が難しい、などのケースが多く、総合診療科にはこうした原因不明の疾患を抱えた患者さんが訪れます。
私が実習で行ったのは、まずは患者さんから丁寧に予診を取ること。背景や生活習慣、日常の変化、悩みなど、問診をしながら見逃しがちな要素を丁寧に聞き出し、そのうえで総合的な視点でアプローチする姿勢を学びました。予診を進めるうちに、思いもよらないヒントが得られたり、全く異なる症状が関連している可能性を見出すこともあり、「症状を単一のものとして捉えない」重要さを肌で感じました。

検査値と症状の背景からのアプローチ:答えのないパズルを解くような診断

総合診療科でのアプローチの醍醐味は、様々な検査結果や患者さんの訴えを元に原因を特定する推理の過程です。例えば、血液検査や画像検査でわずかな異常が見られても、それが単に数値の問題なのか、何らかの疾患を示しているのかを総合的に評価しなければなりません。ある患者さんでは、複数の症状が一見バラバラなものに見えましたが、担当医の先生が「内服薬が合わない可能性もある。処方を変更すれば、改善するかもしれない。」と判断し、患者さんの体調が改善したケースもありました。
このように、ただ検査値に頼るのではなく、「患者さんが置かれている環境や心理的な要素、他科での経緯」など、背景情報を含めて原因を探っていく過程は、総合診療ならではのアプローチであり、まるで答えのないパズルを解くような感覚でした。

患者さん一人ひとりに向き合う医療の大切さ

総合診療科では、「疾患」だけでなく「患者さん全体」を診ることが求められるため、医師の観察力と対応力が試されます。どんなに小さな変化も見逃さず、患者さんの声に耳を傾け、その人の人生に寄り添うことが、治療の一環でもあると学びました。
また、他の診療科では専門的な治療が行われている一方で、総合診療では「どうしても原因がわからない」患者さんにも粘り強く付き合い、生活習慣の改善や必要な科への紹介を通して包括的な治療を提供します。その姿勢に、医療人としての責任感とやりがいを強く感じました。

実習を通して得た、総合診療への理解と感謝

総合診療科での実習を通じて、私は患者さん一人ひとりの状況に合わせて柔軟に対応し、診断の視野を広く持つ重要性を学びました。診断が困難なケースも多く、専門の医師であっても手探りの中で進めていく診療の難しさと面白さを経験することができました。
総合診療は、医療の中でも非常に重要な役割を担っていると感じます。この科の存在があるからこそ、他の専門科もより専門的な診療に集中でき、患者さんが「たらい回し」になることなく適切な医療を受けられるのだと思います。実習を通して、自分もいつかこうした包括的な診療を提供できる医師になりたいと強く感じました。

総合診療の可能性と医療の未来に向けて 

総合診療科は、今後ますます必要とされる分野です。高齢化社会の進展に伴い、複数の疾患を抱える患者さんや原因が特定しにくい症状を訴える方々が増えていく中で、総合診療が果たす役割はこれまで以上に重要になってくるでしょう。

今回の実習体験を通じて、私は総合診療の奥深さと患者さんに対する献身的な姿勢に触れました。総合診療を通じて、医療全体のあり方を見つめ直し、今後の成長につなげていきたいと感じています。医療に興味がある方や、診療科を考えている医学生の皆さんにとっても、総合診療はきっと興味深い分野となることでしょう。