人生会議/アドバンス・ケア・プランニング~患者さんの大切なものを守る医療従事者~

秋田大学医学部医学科5年の坂口慶太です。

今回、緩和ケアセンターの杉本侑孝先生のお話で、「人生会議/アドバンス・ケア・プランニング:もしもの時のためにあなたが望む医療やケアについて前もって考え家族や医療ケアチームと繰り返し話し合い共有する取り組み」という概念についてご教授頂きました。お話のなかで印象に残った人生会議の独自啓発ポスターがあったのでご紹介したいと思います。

これは、紅谷造之医師が体験したエピソードです。

 紅谷医師は、治療が難しい進行肺癌を患う宇野裕さん(当時48歳、福井県在住)の在宅医療を受け持っており、訪問の際1時間ほど診察に加えて問診という名の雑談をすることで宇野さんと打ち解けあっていきました。特に、宇野さんはバイクのこと、娘さんのソフトボールの話になると紅谷医師に嬉しそうに語ってくれました。
 しかし、宇野さんの体調は日に日に悪化していきます。ベッド上での生活も多くなり、酸素チューブも必要な状態となっていき、そんなある日の診察で紅谷医師は今週末に娘さんのソフトボールの試合が大阪であることを知らされます。

 宇野さん「体調も悪いから試合に行くのは無理かな、やめておこうかな…」
 紅谷医師「宇野さん!そんなのだめですよ!宇野さんらしくないですよ!行きましょうよ!」
 宇野さん「そうですよね、行かなきゃですよね」

 数日後、紅谷医師と看護師の同行の元、宇野さんは大阪まで試合観戦に行き、試合中酸素チューブをとって娘さんの応援をしており、宇野さんの勝利を喜ぶ笑顔と大きな声は病気の重さを少しも感じさせませんでした。
 この翌日、容態が急変し息を引き取られました。
 宇野さんのご家族は「最期に試合が見られてよかった」と言葉を残し、本人そして家族にとって後悔のない最期を迎えることができました。

 紅谷医師は、宇野さんの行かないという言葉より、今まで大事なものの話を聞いてきた「その過程」を大事にしたかったと後に語っています。

 拙い要約ですが、このエピソードきっかけに人生会議について興味を持っていただけたでしょうか。再現VTRもありますので下のリンクからご覧ください。

 未熟な医学生ながら私が思ったことは、医療従事者の根底にあるべきものは、「患者さんにとって大切なものを守る」ことであり、病気の治療をすることはその手段でしかないということです。そんな大切なものを守れる医師になりたいと強く思いました。

 ご指導いただいた杉本先生、ありがとうございました。

再現VTR:https://youtu.be/aV5_i83czwA?si=UCpdYvgz1rsPP2P5