診療所実習を通じて気付いた「医療の本質」

こんにちは、秋田大学医学部6年の田高匡孝です!

この度CC2 第7期において、総合診療・検査診断学講座で実習をさせて頂きました。実習を通し、医師国家試験まで残り半年強というこのタイミングで、改めて医療の本質に気づかされるという貴重な経験を得られたので共有させてください!

まずはこの講座の特徴から説明していきたいと思います。

この講座の実習は主に院内実習と院外実習に分かれており、院内実習では主に総合診療科外来を受診した初診患者さんの予診を取ることとなります。基本的には近医や大学病院の他の科を先んじて受診し、そこで病名が判明しなかったために受診していることが多く、学生レベルでは鑑別の難しい方が多いです。そのため、受診までに予習をし、受診後もカルテ記載やカンファレンスを通して病態への理解を深めることが求められます。

一方、院外実習では秋田市内にある診療所やホスピスなどでの実習を行うことができます。特に診療所については外来だけでなく訪問診療にも同行できるほか、希望に応じて複数施設に伺うことも可能です。

さて、この診療所での実習は大学病院での実習とは異なる点がいくつもあります。来院患者数、医師やスタッフの人数など挙げればキリがありませんが、中でも最初に感じたものは医療の性質の違いです。

大学病院では主に病気の診断や治療に重きを置いた医療を行っています。高い専門性を有しており、CTやMRIといった検査機器もそろっています。その一方、診療所や訪問診療では検査機器は限られており、あまり専門性の高い医療は行えません。しかし、その分大学病院ではあまり触れることのない生活背景、社会背景といった部分にも目を向け、患者さんそのものを診て医療を行っていたように思います。

以上のような違いを目にし、当初は「大学病院は病を、診療所は人を診ている」ように感じていました。「小医は病を医し、中医は人を医し、大医は国を医す」という言葉がありますが、まさに大学病院は小医であり、診療所は中医なのだと考えていました。しかし、実習を重ねていくうちにあることが見えてくるようになりました。

それは患者さん自身の性質の違いです。

大学病院に来る患者さんは「病気をどうにかして欲しい」という意識が強いように感じます。実際、総合診療科外来に来られた方のほとんどが「病気の原因を知りたい」「症状をどうにかして欲しい」とおっしゃっていました。他科においても、悪性腫瘍をはじめとした重篤な疾患を抱え、命や生活が脅かされている方が多かったように思います。

一方、診療所に来る患者さんは「病気を治そう」という意識が比較的薄いように思います。糖尿病や高血圧症などの慢性的な疾患を抱え、それらと折り合いをつけながら生活している方が多く、時には病気の治療よりも生活を優先する方もいらっしゃいました。この傾向は訪問診療でさらに顕著です。訪問診療を利用している方は何らかの理由で外来に来られない場合が多く、終末期を迎えた方も少なくありません。こうした方やそのご家族の方はもはや病に対しての治療そのものはほとんど求めておらず、残りの人生をできるだけ苦しみなく、本人らしく過ごせるような医療を求めていたように思います。

ところで、皆さんはBPS(Biological-Psychological-Social)モデルをご存じでしょうか。

これは、病気は生物学的な一側面だけでなく、心理学的、社会学的な側面も包含しているという概念で、多面的に病気や患者を捉えて医療を行うための概念です。

このBPSモデルに則ると、大学病院の患者の方は自身の病気の内、Biological的な側面を重要視していると考えられます。一方、診療所の患者の方は三要素をバランスよく捉え、訪問診療の患者の方はPsychologicalやSocial的な部分に比重を強く置いているだと感じます。

つまり、大学病院や診療所の医療の性質が異なっているのは、それぞれを受診する患者の方の性質の違いによるものだったのです。大学病院は小医であり、診療所は中医であるという訳ではなく、実際は双方とも人を診る中医であり、その上で患者の方に合わせた医療を行っているだけなのだと気づきました。

医療の本質は患者の方のQOLの向上、つまりは「BPSの三要素すべてを捉え、人を診る」ということにあると思います。それはまさに、自分が大学病院や診療所で見学した医療そのものです。しかし大学病院というBiologicalに特化した病院で実習を行っていると、どうしてもBiologicalに高い価値を見出しがちです。あるいは、自分のようにBPSの3要素を網羅していないように見える大学病院を小医だなどと考えてしまうかもしれません。

そんな中で、今回の診療所での実習は医療の本質に気づかされる良い機会となりました。これを読んでいる方の中にはこれから臨床実習を行うという方もいるかもしれません。自分が知る限り、こうした経験を得られる実習はここだけです。そして、この経験は将来の医師像やキャリアプランを考える上で不可欠なものでしょう。総合診療や訪問診療に対する興味の有無に関わらず、ぜひ多くの人にこの講座を回ってほしいと思っています!

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!