報告会で得た足場

はじめに

「2022~2023年度地域医療実習&コミュニティードクター研修報告会」で作品を展示させていただきました、秋田大学医学科3年のしずちゃんこと田中静音です。2年前から主に五城目町において様々な活動をしてきました。1年前からは仲良し四人組で「こけ」というグループを結成しさらに多様な経験をさせていただきました。(ちなみに「こけ」とは「コミュニティードクター研修中」の略です!)今回は2年もの時間をかけ少しずつ少しずつ紡いでいったものを報告させていただく事ができました。このような場を与えて下さった総合診療医センターの方々、いつも私達を導いてくださる漆畑先生、私達を応援してくださる全ての皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。

報告会の形式として“アート”を選ぶ

さて、今回の報告会ですが初めて報告会をやるよとうるしさん(漆畑先生)から伺ったのは確か去年の11月頃だったかと思います。始めはどのような方法で報告するかについて話し合いました。報告会といえば公的な文書を書いたりスーツを着て講演会をしたりという形式がまず考えられるものです。ただ今回は私たちの学びを伝えたい相手が、医療関係者や医療系学生だけでなく五城目町民も含んでおりました。コミュニティードクターは「医療をもっと身近に」という思いでいるはずです。ですからこの報告会も町の人が気軽にふらっと遊びに来られるようなものにしたかったんです。そんな事を考えながらたどり着いたのが“アート”でした。

“余白”を伝える

こけメンバーは、今まで縁のなかったアートで行う報告会が面白そうすぎてワクワクが止まりませんでした。ただそれでも準備期間中から報告会当日までこけは楽しみながらもずっと、「言葉では表現しきれない“余白”の部分までアートで伝える」という理念はぶれないように心がけていました。

実際に作品を作り、当日参加者の皆さんに作品の説明をし、フィードバックを頂いてみて、本当に“余白”を伝えられたと感じております。私は「しずちゃん史」という作品を作りました。しずちゃんこと私は二年間地域活動をする中で、様々な経験をし、その度に自分の心の動きと向き合ってきました。その心の移り変わりを、折り紙の色や形・並べ方等を利用して年表にしたものが「しずちゃん史」です。言葉では表現しきれない繊細な心の様子を、折り紙という新鮮な表現方法によって隅々まで表現することができました。当日も有難いことに、参加者の方から「折り紙を使っているからこそ言葉では表現できない気持ちが伝わってきた」というご感想を頂けました。まさに「“余白”の部分まで伝える」作品になったと感じています。

それぞれの特性

そういえば当日参加者の皆様に「自分の心をこんなにわかっている事もそれを覚えている事も凄いね」とよく言われました。今回、こけの四人で一つの作品を作るのではなく、特にルールも決めずにそれぞれが思いのまま制作したことで、これまで割と一緒に活動していたにも関わらず視点がそれぞれ全く異なっていたという発見がありました。大河は人の表情に、なっつーは問題解決に、ひろむはまち全体を俯瞰的に見ることに、そして私は自分の内側に注目するタイプでした。

私はいつも行動中や行動後は自分の心と向き合ったり、それぞれの心に因果関係を見つけたりします。だから私にとっては「自分の心をこんなにわかっている事もそれを覚えている事も」当然です。しかし作品を作ったりそれにフィードバックを頂いたりしたことで、それが実は私の特性だったのだと気付かされました。このようにこれまで気に留めもしなかったような習慣が浮き彫りになり、自分についてより深く知れたことはこの報告会での大きな収穫の一つであると感じています。

ゲストトークで考えた事

二日間開催の報告会でしたが、両日ともお二人ずつのゲストさんをお迎えしゲストトークを行いました。その中で「医師はたった一つの答えを見つける仕事であるから答えのない問題を考える機会がなくなる」という内容のお話が印象に残りました。

その言葉通りであると思いますが一方で、人の心は人それぞれ異なり自分自身でも理解できかねる程に複雑なもので、病院にかかる方々は特に心が不安定であるに違いありません。医師はそんな答えのない問題を抱えた人を相手にする仕事です。答えはいつもたった一つの正しいものだという固定観念に縛られていては“病気を診る”事はできても“人を診る”事はできないと考えます。そんな持論があったため、この言葉がとても引っかかりました。

確かに診療科や病院の規模によってはじっくり一つの問題について考えている時間は無いだろうと思います。ですがせめて地域に根差した総合診療医やまち医者、それを目指す学生だけでも患者さんの答えのない心の問題と向き合う時間を取っていけたら良いなと、そんな事を考えさせられる時間になりました。

この報告会を足場にして

私はこれまで様々な活動をしてはその度に悩んできました。悩みの多くはいろんな事に少しずつ手を出すばかりで一つの大きな事を継続して行っている訳ではないため、実は何もしていないような感覚があったせいです。ただこのスタイルになったのには理由がありまして。

初めてうるしさんに連れられてフィールドワークをした時は、まだその町の課題を見つけてそれについて長期的に研究をしたいと思っていたんです。けれど実際に町へ行ってみると、課題なんかよりも圧倒的に、笑顔が印象的でした。それは自分の世界が狭いのだと突きつけられるような出来事でした。それからは自分の固まってしまった価値観や人生観を壊して世界を広げようと思い、町の人と山登りをしてみたり、引っ越しを手伝ってみたり、手当たり次第のセミナーに参加してみたり、一見何の役に立つのか分からないようなことを地道にコツコツとやってきました。そういう理由で現在の自分の活動スタイルがありますが、やはり一つの大きな足場がないと不安なものです。

そのような状況の中報告会を開催することになり、自分の2年間を「しずちゃん史」という作品として表現しました。完成した作品を客観的に見てみると、同じような事を繰り返しているように思えていた部分が、色も形も全く異なっていて、自分がちゃんと世界を広げてこられたという事に気が付かされました。そして当日は町民だけでなく、この2年間私たちがお世話になった方々にも足を運んでいただきました。新しい価値観や人生観を与えてくださった皆さんに、そのお陰でどう成長できたのかを伝えられて本当に嬉しかったです。

自分の2年間を言葉では表現できない所まで残すことができ、それを五城目町民やお世話になった方々に報告させていただき、また自分の気が付いていなかった性質を知る事や新たな問いについて考える事もできて、本当に充実したイベントになりました。この報告会を一つの区切りとして、足場として、これからさらに力強く進んでいく所存です。皆様、今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

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